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第一節「未来の夏」イメージイラスト
 かつて“東京”と呼ばれた都市には、主の
いなくなったビルが死体となって連なってい
た。その多くが度重なる地震や巨大台風のた
めに崩壊し、風化していた。都市の残骸の中
には、すでに設計時の耐用年数を超えている
にもかかわらず、存在感を誇示している高層
ビル群があった。
 新宿――。
 遠くから砂塵で霞む情景を見ると、高層ビ
ル群は繁栄していた時代を彷彿とさせるもの
があった。しかし、見あげるほどに近寄って
みると、壁には亀裂が入り、突然変異して紫
外線への耐性を高めた蔦が天への駈けのぼろ
うとしていた。堅牢にそびえ立っているかの
ように見えるビルだが、それは過去の記憶が
かすかに想い出せるほどに危ういものだった。
いつ崩壊しても不思議ではなかった。
 一機の小型フライヤーが低空を飛行しなが
ら、高層ビルに接近する。やがて、ひときわ
高いビルを旋回しながら、その屋上へと着陸
した。
 機体から四人が降り立ち、ビルの中へと消
える。

〜『ラスト・フォーティーン』第一節より〜